なぜ「聞き流し」は効かなかったのか — モノラルからステレオへ

「聞き流すだけで、外国語が聞き取れるようになる」。韓国語にかぎらず、そう聞いて試したことのある人は多いはずです。私もそのひとりで、韓国語をずっと聞き流していました。そして、ほとんど効かなかった。

なぜ効かなかったのか。長いあいだ、自分の集中力や続け方が悪いのだと思っていました。でも、そうではありませんでした。問題は「聞き流し」というやり方そのものの構造にあった、というのが今の私の考えです。

ただ流すだけの音は、雑音として通り過ぎる

意味の分からない音をいくら浴びても、脳はそれを言語として処理しません。知らない言語のラジオやポッドキャストを一日中流していても聞き取れるようにならないのと同じで、対応づける手がかりがない音は、ただの雑音として通り過ぎていきます。意味の分かる入力でなければ習得に結びつかない、というのは語学の研究でも繰り返し言われてきたことです。

従来の「聞き流し」の多くは、ここでつまずきます。外国語の音だけを一本、流し続ける。あるいは、日本語と外国語を順番に交互に並べる。どちらも音の通り道は一本、いわばモノラルです。意味(自分が分かる言語)と音(学びたい言語)が、同じ一本の流れの上で時間をずらして登場するので、脳のなかで両者を「これとこれは同じことだ」と重ね合わせる作業を、聞き手が毎回自力でやらなければなりません。初級のうちはこれが重く、続かない。

意味と音を「重ねる」と何が変わるか

では、意味と音を時間軸の上で直列に並べるのではなく、重ねて流したらどうなるか。

日本語(意味)が先に立ち上がり、それを追いかけるように韓国語(音)が少し遅れて重なってくる。意味が分かっている状態で同じ内容の音が流れてくるので、脳は「いま聞こえているこの音は、さっき分かったあの意味だ」と対応づけやすくなります。雑音だった音に、意味というラベルが貼られていく。ことばを、意味と音という2つの手がかりで同時に受け取ると記憶に残りやすい。これは記憶の研究でも知られている考え方です。

私はこれを、モノラルに対してステレオ・リスニングと呼んでいます。「ステレオ」というのは、左右のスピーカーから別々の音を出す、という物理的な話そのものではなく、2つの言語を立体的に重ねて聞くという比喩です。一本の流れではなく、意味の層と音の層が同時に走っている状態。

モノラル(韓国語の音だけを流す従来の聞き流し)と、意味(日本語)を先に・音(韓国語)を少し遅らせて重ねるステレオ・リスニングを対比した図

なぜ日本語と韓国語だと、これがよく効くのか

「意味と音を重ねる」という発想自体は、語学全般に当てはめて考えられるものです。ただ、それが特によく効く条件があります。日本語と韓国語の組み合わせが、まさにそれです。

日本語と韓国語は、語順(主語—目的語—動詞、SOV)がほぼ一致しています。だから、日本語の文が進むのと同じ順番で韓国語の文も進む。意味のかたまりと音のかたまりが、ズレずに並んで進んでいきます。これが、語順の違う言語ペア(たとえば日本語と英語)では、こうは素直に並びません。動詞や目的語の出てくる位置が入れ替わってしまうので、「いま聞こえた音」と「さっき分かった意味」の対応が崩れてしまう。

さらに、韓国語の語彙のかなりの部分は漢字に由来する「漢字語(한자어)」で、日本語話者にとっては意味の見当がつきやすい。助詞も「は=는/が=가/を=를」のように対応する形があります。語順・語彙・助詞の3つがそろっているからこそ、意味と音を重ねる効果が大きく出る、というのが日本語話者が韓国語を学ぶときの隠れた強みだと考えています。

効くかどうかは、これから正直に確かめます

ここまで「こういう理屈で効くはずだ」という話をしてきました。この仕組みは思いつきではなく、ひとつの方法として設計したものです。類似の先行特許がないかを自分で調べ、新しさ(新規性)も、ありふれた改良ではないこと(進歩性)も成り立ちそうだと判断できたので、特許を出願しました。ただ、特許と効果は別の話です。この方法がどれくらい効くのかは、私はまだ数字で証明できていません。

語学の世界では「これで必ず話せるようになる」「○ヶ月でペラペラ」といった言葉があふれていますが、その効果を、離脱した人も含めてきちんと検証可能な形で公開している例は、私が調べたかぎりほとんどありませんでした。だから私は、OtoOi では効果を大げさに言わないと決めています。うまくいったところも、思ったほどでなかったところも、分かった範囲で出していく。目的は「韓国語の習得」であって、実態より良く見せて売り上げを立てることではないからです。

いま OtoOi は A1(初級)から作りはじめたところで、これから A2 → B1 へと順番に広げていきます。最終的には、初見の韓国ドラマを字幕なしで観られる耳、つまりネイティブの速さで分かる耳まで連れて行ってくれる仕組みに育てたい。その過程を、うまくいったこともそうでないことも含めて、ここで書いていきます。

同じ「聞き流したのに効かなかった」経験のある人と、一緒に確かめながら進められたらうれしいです。


OtoOi はまだ作っている最中です。最初の公開は、このブログと X でお知らせします。

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